2025年ストリーミング競争の新局面:体験価値とAI個別最適化が決め手に

2025年ストリーミング競争の新局面:体験価値とAI個別最適化が決め手に

コンテンツ競争から体験競争へ

Netflix、Disney+、Amazon Prime Video...巨額の制作費を投じてオリジナル作品を生み出す競争は、もはや限界に達しています。2025年、ストリーミングサービスの戦いは「何を見せるか」から「どう見せるか」へと、決定的なシフトを迎えています。

ユーザーが契約できるサービス数には限りがあります。月額1,000円〜2,000円のサービスを3つも4つも契約し続けることは現実的ではありません。だからこそ、各プラットフォームは「このサービスでなければ得られない体験」を提供する必要に迫られているのです。

視聴体験のレイヤー化とは

単に映像を流すだけでなく、その周辺にどれだけの付加価値を重ねられるか。これが「体験のレイヤー化」です。Amazon Prime VideoがNFL中継で実現している「X-Ray」機能は、その好例と言えるでしょう。

試合を見ながら、選手のスタッツや過去の対戦データがリアルタイムで画面に表示される。これにより、ただのスポーツ観戦が、データ分析も楽しめるインタラクティブな体験へと変貌します。Apple TV+のサッカー中継でも、マルチアングルや選手トラッキングデータ表示など、視聴体験はどんどんリッチになっています。

Netflixがモバイルゲーム配信を始めたのも、この文脈で理解できます。映像コンテンツの合間にユーザーを繋ぎとめる、体験のレイヤーを増やす戦略なのです。

AI超パーソナライゼーションの時代

体験のレイヤー化を加速させるエンジンが、AIによる超パーソナライゼーションです。現在のレコメンド機能は「この映画を見たあなたには、これもおすすめ」という程度ですが、2025年以降はもっと踏み込んできます。

視聴履歴、時間帯、曜日、さらにはどんなデバイスで見ているかまでをAIが学習。「金曜の夜9時、PCの前で集中しているあなたには、この骨太なドキュメンタリーを。週末、ソファでリラックスしながらiPadで見たいなら、この新作コメディドラマがピッタリですよ」といった、コンシェルジュのような提案が実現します。

さらに、生成AIを使って予告編をユーザーごとに最適化することも技術的に可能になってきています。好きな俳優の出演シーンを多めに繋いだ予告編や、サスペンス好きなら謎が深まるような構成の予告編など。同じ作品でも、見せ方一つで「見たい!」と思う気持ちは全然違いますからね。

エンゲージメントの奪い合い

結局のところ、2025年のストリーミング競争の主戦場は「ユーザーの可処分時間をいかに自社プラットフォームで長く、深く使ってもらうか」というエンゲージメントの奪い合いに移っていきます。

SVoD市場の成長は続く予測ですが、一人のユーザーが契約できるサービス数には限界があります。だからこそ、価格やコンテンツラインナップだけでなく、「このサービスならではの体験」が決定的な差別化要因になるはずです。

ここまで来ると、もはやサービスが自分の好みを自分以上に理解してくれている、という感覚になります。これが実現できれば、ユーザーは簡単には離れられなくなります。

今後の展望

テクノロジーがエンターテイメントをどう変えていくのか。2025年は、単なるコンテンツの質と量の競争から、AIと体験設計を組み合わせた新しい競争軸が本格的に立ち上がる年になるでしょう。

消費者にとっては嬉しい悲鳴かもしれませんが、プラットフォーム側は生き残りをかけた熾烈な戦いを繰り広げることになります。私たちは、その最前線を引き続きウォッチしていきます。